日本人EGFR陽性NSCLC、アファチニブvs.オシメルチニブ(Heat on Beat)/日本肺癌学会

提供元:ケアネット

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公開日:2025/11/17

 

 オシメルチニブは、EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者の標準治療として用いられている。ただし日本人では、オシメルチニブの有用性をゲフィチニブまたはエルロチニブと比較検証した「FLAURA試験」1,2)において、有効性が対照群と拮抗していたことも報告されている。そこで、1次治療にアファチニブを用いた際のシークエンス治療の有用性について、1次治療でオシメルチニブを用いる治療法と比較する国内第II相試験「Heat on Beat試験」が実施された。第66回日本肺癌学会学術集会において、本試験の結果を森川 慶氏(聖マリアンナ医科大学 呼吸器内科)が報告した。なお、本試験の結果は、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)でも報告されている(PI:帝京大学腫瘍内科 関 順彦氏)。

・試験デザイン:国内第II相無作為化比較試験
・対象:未治療のStageIIIB/IIIC/IVのEGFR遺伝子変異陽性NSCLC患者100例
・試験群(アファチニブ群):アファチニブ→病勢進行時の再生検でEGFR T790M変異が認められた場合にオシメルチニブ 50例(解析対象:47例)
・対照群(オシメルチニブ群):オシメルチニブ 50例(解析対象:48例)
・評価項目:
[共主要評価項目]3年全生存(OS)率、免疫学的バイオマーカー探索
[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、OSなど

 主な結果は以下のとおり。

・解析対象患者の年齢中央値は、アファチニブ群70歳(範囲:43~87)、オシメルチニブ群72歳(48~88)、非喫煙者の割合はそれぞれ46.8%、45.8%であった。EGFR exon21 L858R変異がそれぞれ48.9%、47.9%であった。
・ORRはアファチニブ群63.8%(CR:1例)、オシメルチニブ群62.5%(CR:3例)であった。
・3年OS率はアファチニブ群54.7%、オシメルチニブ群57.5%であり、主要評価項目は達成されなかった(p=0.64)。
・OS中央値はアファチニブ群38.8ヵ月、オシメルチニブ群未到達であった(ハザード比[HR]:1.15、95%信頼区間[CI]:0.64~2.05)。
・PFS中央値はアファチニブ群16.7ヵ月、オシメルチニブ群14.5ヵ月であった(HR:1.17、95%CI:0.72~1.90)。
EGFR遺伝子変異の種類別にみたPFS中央値、OS中央値は以下のとおりであった(アファチニブ群vs.オシメルチニブ群[HR、95%CI]を示す)。
【exon19欠失変異】
 PFS中央値:18.3ヵ月vs.33.6ヵ月(HR:1.62、95%CI:0.75~3.48)
 OS中央値:未到達vs.未到達(HR:1.16、95%CI:0.42~3.20)
【exon21 L858R変異】
 PFS中央値:13.9ヵ月vs.10.6ヵ月(HR:0.88、95%CI:0.43~1.79)
 OS中央値:35.9ヵ月vs.未到達(HR:1.21、95%CI:0.54~2.70)
・有害事象は、アファチニブ群では下痢、ざ瘡様皮膚が多かった。下痢の発現割合(全Grade/Grade3以上)はアファチニブ群91.5%/29.8%、オシメルチニブ群31.3%/6.3%であり、ざ瘡様皮膚はそれぞれ68.1%/10.6%、43.8%/2.1%であった。一方、オシメルチニブ群では肺臓炎が多く、発現割合はそれぞれ10.6%/2.1%、20.8%/6.3%(オシメルチニブ群のGrade3以上はいずれもGrade5)であった。
・有害事象で1次治療が治療中止に至った患者のうち、2次治療に移行した患者の割合はアファチニブ群70.0%(7/10例)、オシメルチニブ群35.7%(5/14例)であった。
・2次治療を受けた患者の割合は、アファチニブ群74.5%、オシメルチニブ群54.2%であった。2次治療の内訳は以下のとおりであった。
【アファチニブ群】
 化学療法20.0%
 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)±化学療法42.9%
 オシメルチニブ±化学療法31.4%
 オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法5.7%
【オシメルチニブ群】
 化学療法23.1%
 ICI±化学療法53.8%
 オシメルチニブ±化学療法3.8%
 オシメルチニブ以外のEGFR-TKI±化学療法19.3%
・アファチニブ群の病勢進行時の再生検検体でEGFR T790M変異が認められた割合は、組織検体19.2%(5/26件)、リキッドバイオプシー検体20%(4/20件)であった。
・末梢血中の種々の免疫細胞を評価し、Th7RおよびTh2フラクションのみがPFSおよびOSとの相関を認めた。オシメルチニブ群では、Th7R高値、Th2低値で予後が良好な傾向にあったが、この傾向はアファチニブ群では認められなかった。バイオマーカー別のオシメルチニブ群のPFS中央値、OS中央値は以下のとおり。
【免疫バイオマーカー:Th7R高値vs.低値】
 PFS中央値:33.1ヵ月vs.6.7ヵ月(p<0.01)
 OS中央値:未到達vs.40.5ヵ月(p=0.29)
【免疫バイオマーカー:Th2高値vs.低値】
 PFS中央値:6.0ヵ月vs.30.6ヵ月(p=0.02)
 OS中央値:30.2ヵ月vs.未到達(p<0.01)

 本結果について、森川氏は「主要評価項目の3年OS率は達成されなかった。その要因の1つとして、EGFR T790M変異の検出が低く、かつT790M変異陽性症例でのオシメルチニブ投与期間も想定より短かったため、シークエンス治療(アファチニブ→オシメルチニブ)が有効であった症例が少なかったことが考えられる」と考察した。また「オシメルチニブはホストの免疫状態によって治療効果が大きく影響を受ける可能性があり、Th7Rなどの免疫バイオマーカーがオシメルチニブの治療効果予測に関与する可能性がある」と述べた。

(ケアネット 佐藤 亮)